アイルランド音楽に関する書籍や楽譜は、国内の大型書店の洋書コーナーでも入手し辛い。掲載した本はアイルランド旅行の際に入手したものがほとんどである。しかしながら幸いなことにインターネット時代、ネット通販で簡単に購入できるようになった。ひとつの例外、一番バッターとして取り上げた "Irish Traditional Music" を除いて、ISBN(国際標準図書番号)を記載したので、興味ある方は参考にしていただければ幸いである。なお書籍のタイトルあるいはISBN番号をクリックすると、アマゾン日本法人のページに移動するようにした。
サブタイトルの "Session Tunes" が示すように、さまざまな楽器に適応したセッション用の楽譜集。ジグ、リール、ホーンパイプ、セットダンスそしてスローエアなど、伝統的なアイルランドのポピュラー・チューン62曲が収録されている。
マット・クラニッチはコーク郡コーク在住のフィドラー。本書は巻頭部分からまずフィドルの説明、五線譜の解説、楽器の持ち方という具合に始まる。初歩的なメロディの弾き方を懇切丁寧な写真入りで解説、次第にアイリッシュフィドル独特の装飾音や運弓法のレッスンに誘導する。そしてジグやリール、ホーンパイプやセットダンスの世界に誘うが、ところどころに散りばめられたフィドラーなどの写真も素晴らしい。初心者向けフィドル教則本のベストセレクション。
ダブリンの音楽出版社 Waltons から出ている "110 Ireland's Best" シリーズのフィドル編。著者のポール・マクネヴィンはフィドラーだが、指導者としても名高いようだ。タイトル通り全部で110曲のギターコード付きフィドルチューンが載っているが、本書と連携したCDも販売されている。
著者は1943年スコットランドのエディンバーグ生まれのミュージッシャン。アイルランドに残る詩を参照しながらブリテン諸島におけるフィドルの歴史と音楽的背景を詳述している点、単なる教則本とは一線を劃している。そしてリールやホーンパイプなど、フィドルチューンのさまざまな形式を懇切丁寧に解説している。タイトル通り英国のイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドに伝わる曲の楽譜を収録しているが、それぞれの曲にコメントをつけているのが親切だ。著者自身の演奏によるCDつき。蛇足ながら表紙の写真は著者が若いころのもので、何とも微笑ましい。
副題はシリアスなプレーヤーのためのガイド。著者は1966年ジンバブエ生まれだが、4歳以降は英国をベースにしている。伝承音楽と言語から説き、運弓法、左指の使い方、そして曲目解説へと進む。著者自らの格言が散りばめれれているが「自分自身のサウンドを誇りなさい」というのは心強い。楽譜と対になった著者演奏のCDつき。
アイリッシュフィドルの教則本 "Fiddle Tune" の著者マット・クラニッチが編纂したアイリッシュ・セッション・チューンの楽譜集。ダブルジグ、スライド、ポルカ、リール、ホーンパイプ、セットダンス、エアなど100曲が収録されている。なお出版元は著者クラニッチが住むアイルランド南部、マンスター地方にあるコークにある。
アイルランドのバラッドが158曲収録されている。歌詞およびギターのコード付き楽譜が載っているが、挿入されている歴史的な古写真&イラストが素晴らしい。昔のダブリンの光景や農村風景など、写真集としても貴重なものだ。
著者のフランシス・オニールはアイルランドの壊滅的なジャガイモ飢饉が起きた翌年の1848年にコークで生まれている。彼はアメリカに渡りシカゴの警察官になった彼は1901年にはシカゴ警察の最高責任者まで登りつめます。彼は自らも横笛を演奏したアイルランド音楽の熱烈な愛好家でした。そして彼は警察官の仕事のかたわらアイルランド民謡の蒐集を始め、約3500曲の伝承曲を集めて8冊の本を出版します。本書には貴重な民謡365曲がピアノスコアつきで掲載されている。
タイトルのシャムロック(シロツメグサ)、ローズ(バラ)、シッスル(アザミ)はアイルランドを象徴する草花。このソングブックはノース・デリーに伝わる民謡を74曲を収録している。歌の蒐集には本書で献辞が捧げられている故エディー・ブッチャーの功績が大きいようだ。北アイルランドは激しい抗争を繰り返し、現在も政治的には英国の支配下にあるが、自然とともに豊かな音楽的土壌を持った地方であることを忘れてはならない。
アイルランドの伝承音楽の解説書。著者はトラッドグループ "Na FiLí" のイリアンパイプ奏者だっただけに演奏に関する専門的な解説が書かれている。パイプはもちろんだが、フィドルに関しても詳しい。譜面を見て演奏してもアイリッシュ音楽のフィーリングが出ないのは、独特の装飾音がつくからであろう。5連音符を使うなど、演奏家らしい記述である。
アイルランドの伝承音楽、民謡そしてダンスが今日に至るまでいかに形成されてきたかの歴史研究書。フィドルやアイリッシュ(ユニオン)パイプ、ホイッスルに関する伝統的な演奏に対するテクニックとスタイルの深い考察も。著者自身がパイパーで、グループ "Na Piobairí Uilleann" の主宰者だった。復刻版が入手可能。
アイルランドの有名な歌、例えば "When Irish Eyes Are Smiling" や "Danny Boy" など、30曲を集めたソングブック。初版の発行年は不明だが、1998年の再版では「アイルランド系アメリカ人の歌」という副題がついている。"Danny Boy" はイギリスの詩人・弁護士だったフレデリック・E・ウェザーレイが書いたものだが、アメリカから逆輸入された、北アイルランドのアルスター地方に伝わる "Londonderry Air" のメロディに乗せたものなので、アイルランドの歌としているらしい。
副題に「あるいは縁の下のヴァイオリン弾き」とあるように、ソフィスケートされたクラッシック音楽のヴァイオリンではなく、民衆の中に育まれたフィドルを解説している。両者の違いから始まり、ブリテン諸島のフィドルスタイル、東ヨーロッパのフィドルとジプシー音楽、移民とともにアメリカに渡ったフィドルがどう受容されていったか、などなどを紹介している。20世紀初頭の1910~20年代に、アメリカのフィドルは大衆の楽器からポピュラー音楽へのオジャマムシに転落したが、その一方で、ヨーロッパ各地の伝統的フィドルは、同時代のアメリカで黄金時代を迎えていた、という記述は日本では初めての解説ではないだろうか。巻末のディスコグラフィーが凄い。